もう一つのオンリー・ワンを   恐竜博物館に続くFUKUIの魅力発信

井原康宏 一般社団法人・共同通信社常務理事兼編集局長 

 北陸新幹線の開業準備が進むJR福井駅。東口を車で出発し、北陸自動車道・福井北インター付近を経て、勝山街道を東へ。永平寺町役場(旧松岡町役場と言った方がなじみがある)前を通り、鳴鹿橋を渡ると、視界が開け、九頭竜川の滔々たる流れを一望にできる。九頭竜川を右手に見ながらさらに東へ。左手には浄法寺山が間近に迫る。福井市内から見る冬の浄法寺山は、白銀に輝き、神々しいばかりである。勝山市の市街地に入る手前を左折してしばらく行くと、銀色のドーム型の建物が目の前に飛び込んでくる。福井県立恐竜博物館だ。世界有数の博物館として高い集客力を誇る。が、FUKUIの魅力を世界に発信するためには、もう一つの「オンリー・ワン」が欲しい。 (中略)

◆恐竜のメッカ

福井県立恐竜博物館は、カナダ・アルバータ州のロイヤルティレル古生物学博物館、中国・四川省の自貢恐竜博物館と並んで、世界三大恐竜博物館と位置づけられる。まさに日本国内のみならず、世界的に見てもオンリー・ワンの施設である。子どもの恐竜への関心は時代や国境を超えて変わらないものだろう。かつて人類と同じようにこの地球上に生息し、巨大隕石の衝突をきっかけに絶滅したという生命の不思議さへの興味は尽きない。人類も同じ運命をたどるのではないかという潜在的な不安は大人をも共感させる。消費者の指向が「もの」から「こと」へ移る時代にあって、太古の歴史を知り、思いをはせることのできる貴重な博物館である。しかし恐竜博物館だけでは、世界から人を呼ぶには物足りない。もう一つのオンリー・ワンを。それはやはり最大の福井の魅力である「食」だろう。(中略)

◆ ブランド力

福井の食といえば、おろしそば、ソースかつ、焼き鯖寿司、小鯛の笹漬けなど数多くあるが、究極はカニ料理だ。2016年から2年間、名古屋で勤務したが、毎年冬になると名古屋から越前海岸へカニを食べに行くのを楽しみにしているという人にたくさん出会った。関西方面も同様だろう。北陸新幹線が延伸され、福井と首都圏が直結すれば、首都圏からも人を呼べる。越前ガニは地元漁業者や漁協、自治体の努力で、ブランド化に成功した。「福井で越前ガニを食べる」は今や贅沢の一つといえよう。

そこで越前海岸に沿って走る、あわら市〜南越前町の国道305号、南越前町〜敦賀市内の国道8号を、世界に誇るカニ料理のメッカにすれば、もう一つのオンリー・ワンになるのではないか。もちろんカニ漁の解禁期である11月から3月まで限定ではあるが、だからこそ価値が高いとも言える。しかも巨大ホテルなどレジャー施設ではなく、今と同じような料理旅館や料理屋、民宿中心がいい。併せて、カニの資源保護にも努力してほしいし、観光客が見学できる施設もあったらいい。(中略)

越前海岸はその景観が素晴らしい。福井市の実家に帰る度、両親と車で越前海岸を訪れる。海岸線の美しさだけでなく、夕陽が海に沈む雄大さ、温泉、カニに限らず豊富な魚料理、もみわかめはご飯が進む、魚のすり身をその場で揚げたかまぼこは絶品だ。福井市内は雪が深くても、越前海岸は少ない。北陸新幹線で東京から3時間程度。新大阪まで全線開業すれば、大阪から1時間もかからない。福井、南越、敦賀のいずれの駅からも越前海岸まで1時間以内で到達する。

福井の魅力は可能性にあふれている。

 

いはら・やすひろ 1960(昭和35)年10月、福井市生まれ。県立藤島高校、横浜国立大学卒業。1983年に一般社団法人共同通信社入社。神戸支局などを経て1991年から本社編集局政治部。自民党、首相官邸、外務省などを担当し、1998年12月から2年間、ワシントン支局。帰国後、政治部デスクなどを経て2010年から2012年まで政治部長。総務局長、名古屋支社長を経て、2018年10月から編集局長、翌19年9月からは常務理事兼編集局長。

※この欄は「福井の幸福を語ろう ふるさとへの提言」(中央経済社刊)から一部抜粋したものです。全文を読みたい方は同書をお買い求めくだい。