「日本のシリコンバレー」を目指せ – 教育県・福井のブランド化 –
伊藤雅彦 株式会社フジクラ取締役社長
私は、実は高校卒業までの18年間しか福井県にはいなかった。しかし、その18年間は最も多感な時期で、人生に大きな影響を受けた。当社に入社し東京に出てきたが、私の友人や会社の関係者にいつも誇りを持って福井のことを語っている。福井県の県民性は私の自慢だ。人間が純朴、そして勤勉である。日本の中で幸福度がいちばん高いというデータもある。また、福井は非常に教育に熱心な県で、小中学生全国体力調査で1位であるだけでなく、全国学力テストでも常に3位以内とのことである。東京のほうが刺激にあふれ学習の機会も豊富にありそうなものだが、福井のほうが学力は上である。基礎学力は非常に大事で、若い頃にどれだけ基礎学力を身につけているかでその後の生き方も変わってくる。これをなんとかブランド化できないものかと考えている。
ブランド化にあたってどういうアプローチがいいのか。例えば、今、私どもの会社フジクラでは「健康経営」を戦略の一つの軸に据えている。「社員が活き活きと働いている企業グループ」を目指し、心身の活性化および健康増進の取り組みを進めている。社員は心身ともに健康であればこそトップギアで走ることができ、決められた時間のなかで生産性を高め、成果を出すことができる。それが企業の生産性向上、収益改善につながる。(中略)
この発想を教育県の福井に持ち込めないだろうか。福井の小中学生の学力・体力が日本の中で高いことは、全国に誇ることができるブランド力だ。ベースとなる基礎学力が高いか高くないかは生まれ育った環境に左右される。小中学校の間の、まさに人間の土台をつくる時期の教育は非常に重要であると思う。小中学校時代を福井で過ごすことで優れた人物に育つ。そうした「人物輩出県・福井」というブランドを提案したい。学力・体力が高いという客観的事実を誘引材料に広くアピールすれば、3年なり6年なり子どもたちを福井で育てようと思う人が出てくるかもしれない。そうなれば若年層が増え、教育県としてのブランド価値もさらに上がるはずだ。人材教育は基本中の基本。読み書きだけではなく人間的な倫理観、道徳も含めてしっかりと育ててくれる県だから、数年福井に預ければ、立派な人間になって帰って来る。そうした夢があっていいのではないか。教育ナンバーワンのブランドを使わない手はない。
もう一つ、人口10万人当たりの社長輩出の割合も福井は30年以上連続トップだ。メガネや繊維関連という地場産業の中で、ベンチャー的な素養を育てることができる県なのかもしれない。規模は小さいが、いろいろな事業を、一代で築き上げている方が多い。まさしくその方々はベンチャーの意欲を持った方々だ。ベンチャー企業が育つベースには教育県・福井があり、かつ、その志を遂げる気持ちが育つ環境がある。そう考えると、アメリカ西海岸のスタンフォード大学とシリコンバレーというような関係が福井でもできるのではないか、そうなればすごいことになる。多くのベンチャー企業が興り、かつ、ベンチャー企業を守るコミュニティーがそこにある福井には「日本のシリコンバレー」になることができる素地が十分にあると思う。私どもの会社では、福井工業高等専門学校出身の方々が多く活躍しているが、高専卒の方々は概して勤勉な印象だ。高専の教員のお話を伺っても勤勉さが一番の強みだとおっしゃる。そういう方々が私どものような一般企業で社会勉強をした上で、地元にリターンしてベンチャー企業を立ち上げることも十分に考えることができる。
福井イコール社長輩出ナンバーワン、学力・体力ナンバーワン、ここはぜひ強みにしていただきたい。インバウンドで福井に観光客を呼び込むことも、少子高齢化時代に対応した一つの手だとは思う。しかし、福井には観光だけでない、福井ならではの、福井だけにしかないユニークなセールスポイントがある。それをもっと活用するマインドがあってもいいのではないか。若い時に福井で教育を受けることで、高い学習意欲、あるいは優れた人間性を身につけることができる。そうしたところをもう一つの高尚なブランドとして活かしてほしい。(以下略)
いとう・まさひこ 1957年、武生市(現越前市)生まれ。1976年福井県立武生高校卒業。1982年静岡大学大学院工学研究科無機合成化学専攻修了、同年藤倉電線株式会社(現株式会社フジクラ)入社。2014年常務執行役員就任を経て2016年より取締役社長就任。座右の銘は「和を以て貴しとなす」で、よく語り合い、互いにしっかりと理解を深め、納得して物事を進めることを大切にしている。「社員が財産である」ということを強く意識し目標に向けて全員でチームとなって邁進する経営を目指す。
※この欄は「福井の幸福を語ろう ふるさとへの提言」(中央経済社刊)から一部抜粋したものです。全文を読みたい方は同書をお買い求めくだい。